電気まで、自分で持つ
ここまでの連載は、自宅の中の話でした。第6回は、その先の構想です。田舎の中古物件に、小さなデータセンターを作ります。
一部屋をサーバールームに、もう一部屋をリン酸鉄リチウム電池のバッテリールームにする。電源は太陽光と蓄電池。光回線は二つ契約し、電気の系統も二つに分ける。回線だけでなく、電気まで自分で持つ。それがこの構想の中心です。
最初は、小さなUPSから
いきなり太陽光パネルを並べるわけではありません。最初にやるのは、モデムとルーターとNASを、停電から守ることです。これなら、今の自宅でも始められます。
停電したときに電池から電気を送り続ける装置をUPS(無停電電源装置)と呼びます。UPSには、切り替え方によっておおむね三つの方式があります。
| 方式 | しくみ | 向いているもの |
|---|---|---|
| 常時商用給電 | ふだんはコンセントの電気をそのまま流し、停電したら電池に切り替える。切り替えの一瞬、途切れる。 | 一般的なパソコンや周辺機器 |
| ラインインタラクティブ | ふだんはコンセントの電気を流しつつ、電圧の変動を補正する。 | NAS、小規模なサーバー、ネットワーク機器 |
| 常時インバータ給電 | 常に電池側の回路を通して電気を作る。停電しても途切れない。 | 止まってはいけないサーバー |
モデム、ルーター、NASだけなら消費電力は小さく、最初は小さなUPSで足ります。リン酸鉄リチウム電池を使ったポータブル電源にも、停電時に自動で切り替わる機能を持つものがあります。ただ、製品によって切り替えにかかる時間が違い、その一瞬でNASが再起動してしまうこともあります。選ぶときは、切り替え時間の仕様と、NASがUPSからの信号を受けて自動で安全に停止できるかを確かめます。
常に動かすものは小さく、重いものは晴れた昼に
オフグリッドの電源で大事なのは、常に動かし続ける機械の消費電力を小さく抑えることです。常に動くのは、NASと回線の機器だけにします。
電気の量は、足し算で見積もれます。1Wの機械を1年間動かし続けると、約8.8kWhになります。
| 消費電力 | 1年間の電力量 |
|---|---|
| 20W | 約175kWh |
| 100W | 約876kWh |
| 1,000W | 約8,760kWh |
GPUのクラスタは、この表の一番下より、さらに上の世界です。だから、GPUは常に動かしません。太陽光で電気が余っている昼の間だけ、重い処理をまとめて回す。夜や雨の日は止めておき、蓄電池はNASと回線を守るために使います。AIの処理を急がない仕事から順に、晴れた昼に寄せていく設計です。
TODO:GPUクラスタの構成(1枚のボードに載せる枚数と、ボードの数)を確定して、ピーク時の消費電力の見積もりを追記する。
なぜ、部屋を二つに分けるのか
熱
機械が使った電気は、ほぼすべて熱になります。GPUを並べた部屋は、大きな暖房器具を何台も動かしているのと同じです。エアコンで部屋全体を冷やすより、機械の背中から出る熱を、ダクトで直接外へ逃がす通り道を作ります。
電池の温度と重さ
リン酸鉄リチウム電池は、ほかのリチウムイオン電池に比べて熱に強く、発火しにくいとされています。それでも、極端な寒さや暑さは寿命を縮めます。バッテリールームは、サーバーの熱から切り離して、温度を安定させます。容量が大きくなれば重さもかなりのものになるので、古い木造の家なら床の強さも確かめます。
何かあったときに、被害を部屋の中で止める
電気の設備と、計算の設備を分けておけば、どちらかで問題が起きても、もう一方まで巻き込みにくくなります。騒音も、生活する場所から遠ざけられます。
回線と電気を、二系統に
光回線は、できれば別の事業者、別の経路で二つ引きます。同じ事業者の回線を二つ引いても、その事業者の設備が止まれば両方止まるからです。第3回のトンネルは、NASの側から張りに行く形なので、生きている方の回線からつなぎ直せます。
電気も、商用の電気と、太陽光・蓄電池の電気の二系統にします。止まってはいけないNASと回線の機器は蓄電池の側に、止まってもいいGPUは商用の側に、というように、何を守るかで振り分けます。
田舎ならではの、雷
電柱の末端にある家は、雷の影響を受けやすいと言われます。分電盤には雷の過電圧から守る装置(SPD)を入れ、機械どうしの配線の一部を光ファイバーにして、電気的に切り離しておきます。
自分でやってよいこと、頼むべきこと
ここは、ロマンだけでは進められない部分です。この構想では、次の点を必ず確かめてから動きます。
- 電気工事:屋内の配線や分電盤の工事には、電気工事士の資格が必要です。資格のない工事はしません。
- 蓄電池の容量:一定以上の容量の蓄電池設備は、自治体の火災予防条例により、消防署への届出などが必要になる場合があります。
- 太陽光と電力網:太陽光の電気を電力会社の電線につなぐ場合は、電力会社への申し込みが必要です。完全に切り離したオフグリッドにするかどうかで、手続きが変わります。
- 電気の契約を二つにすること:電力会社の約款では、一つの建物での契約の数に決まりがあることが多く、自由に二つ契約できるとは限りません。電灯と動力のように種類の違う契約なら並べられる場合もあるので、電力会社に確認します。
- 家庭用回線の規約:家庭用の光回線の中には、サーバーの運用を制限している契約もあります。契約前に規約を読みます。
この記事は構想段階の記録です。実際の工事や契約の前には、電気工事店、自治体の消防、電力会社、回線事業者に、それぞれ確認してください。
この段階でやること
- 今の自宅で、モデム・ルーター・NASを小さなUPSで守る。NASの自動停止を試す。
- 常に動かす機械の消費電力を測り、1年間の電力量を出す。
- 物件を探す前に、電気工事・蓄電池・電気の契約・回線の規約の条件を確かめる。
- 物件が決まったら、部屋の割り当て、熱の逃がし方、配線を設計する。
- 太陽光と蓄電池は、常に動かす機械の分から始めて、GPUの分は後から足す。